第5講 東京大学入試問題(2012年)完全解説

 さて、第1講から第4講までの近代における物心二元論と機械論的自然観の流れが理解できれば、この2012年度の東京大学の入試問題の内容は簡単に理解できるでしょう。

 このように、現代文の問題というのは一見すると難しく「何を言っているんのかさっぱりわからない」という受験生が数多くいるのですが、実は入試問題に頻出のテーマというのがあり、そのテーマの背景となる知識をしっかりと理解しておけば、本文内容の理解に関してはまったく心配はないのです。ですから、今後も、このような現代文の背景にある頻出テーマの思想やキーワードをしっかりと身に付けていって欲しいと思います。
 
 ただし、どれほど本文内容を理解していようと、設問そのものが正しく解答されていなければ、試験は0点です。「設問に対する正しい解法」も徐々に身に付けていきましょう。

 では、東京大学入試問題(2012年度第1問)ですが、著作権の問題がありますので、問題文は以下のリンクを参考に以下のように勉強して下さい。

 ①本文を読み、内容が理解できるかどうかを確認する  →  まずはこれだけでもやってみましょう。そして、この講座の第1講から第4講までを読めば、「東大の入試問題といえども意外に理解できるんだなぁ」という実感をして欲しいと思います。(ただし、この講座の第1講から第4講までを未読の人は、第1講から第4講までを最初に読んで下さい。 第1講 第2講 第3講 第4講

 ②(高2・高3生の場合)真剣に問題を解いてみましょう。もちろん、鉛筆を手にしノートに解答を作成して下さい。頭の中だけでなんとなく答えを作るのはダメです。私たちは、「頭の中ではなんとなくわかっていても、文字にしてみると意外にわかっていない」ということがあるのです。文字にすることが国語力アップの大きな要素であることを考え、しっかりと文字にして書いてみましょう。

 ③その後、自分の解答と以下の解説を見較べてみましょう。できなくて当たり前です。解答作成のポイントがどういう点にあるのかを考えながら、解説を読んで、そして自分の答案の良い部分悪い部分を探し出して下さい。良い部分は解答に残し、悪い部分は解答から削り、正しい部分を書きたし、自分で自分の答案を「添削」するのです。この作業がしっかりできれば、あなたの国語力は飛躍的にアップしているはずです! そして、「どんなに内容理解ができても、問題の解法・答案の作成は別なんだな」という点を実感して下さい。

 では、始めましょう! 皆さんの健闘を祈ります! Good Luck!(^^)! 

 東京大学入試問題(2012年度第1問)

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 どうでしたか? 内容そのものは意外に理解できたのではないでしょうか?

 では、設問の解説に行きます。

(一)
【模範解答】
近代科学の自然観の特徴の一つで、自然を没価値で機械的な法則に従うだけの物理学的客観的世界とし、一方で、知覚はそれに価値や意味を与える主観的表象とし、両者をまったく異質なものとみなす考え。
【解説】
まず設問で聞かれていることを明確にしよう。(一)では「物心二元論」を本文に沿って説明することが求められている。
基本的には第7段落から第9段落が該当箇所になるが、特に第9段落最後の「こうして、物理学が記述する自然の客観的な真の姿と、私たちの主観的表象とは、質的にも、存在の身分としても、まったく異質のも のとみなされる。」が「物心二元論」の中心的考えである。すなわち、「自然=物理学的=客観的」vs「主観的表象」→「まったく異質のもの」という構図である。
さらに、第10段落において「二元論は、没価値の存在と非存在の価値を作り出してしまう。」と述べ、続く第11段落で「二元論によれば、自然は、何の個性もない粒子が反復的に法則に従っているだけの存在となる。」と説明され、「自然=物理学的=客観的」世界に「没価値」という概念を付け加えている。もちろんこれと対比する部分として第9段落の「これは、主観が対象にそのように意味づけたからである。」という部分を対応させれば、「主観的表象」に「意味=価値」という概念が付け加えられる。このように、明確な対比関係を素材としている文章では、解答作成時に対比関係をしっかりと意識していくことが点数アップにもつながるし、また解答そのものが作成しやすくなるという点も覚えておこう。
最後に、「物心二元論」そのものの背景として、「近代科学の自然観には、中世までの自然観と比較して、いくつかの重要な特徴がある。」と第4段落で述べた後の具体例として「物心二元論」は説明をされている点も解答として考慮しておきたい。

(二)
【模範解答】
近代的自然観の特徴である二元論によると、自然そのものは没個性的な意味や価値がない単なる客観対象にすぎず、賛美すべき意味や価値を主体的に自然に与えた人間そのものを称賛すべきだから。
【解説】
まず設問で聞かれていることを明確にしよう。(二)では、「自然賛美するべき詩人が自然ではなく人間を自己賛美しなければならない」という点に矛盾があり、そこを説明していく必要がある。このように、まず設問をよく読み、どの点についてどのように考えていくかという指針を決めることが重要である。
そもそも「自然賛美」とは自然の中に意味や価値を見出しそれを称賛するという行為のはずである。しかし、(一)でも述べたように、二元論的考えでは自然そのものは没価値的であり、意味や価値を内在しないものである。さらに第10段落の傍線部直前に「これが二元論的な認識論である。そこでは、感性によって捉えられる自然の意味や価値は主体によって与えられるとされる。」とあり、「意味や価値は自然そのものに内在するものではなく、主体=人間によって与えられるものである」という点が明白になる。以上の点を踏まえれば解答として十分であろう。

(三)
【模範解答】
二元論的な自然観によると、自然はそれ自体に価値や意味を持つことがないため、食物を分解し必要な成分を残さず栄養として摂取するように、自然を徹底的に分解し必要な材料やエネルギーを徹底的に利用することに躊躇を感じる必要はないから。
【解説】
設問で聞かれていることを明確にしよう。ポイントは3点ある。ポイント①「自然を・・・摂取できる」という部分を前後から考え説明する。ポイント②「栄養として摂取する」という部分は比喩なので、何がどの様な点で「栄養として摂取する」ことに例えられているのか、類似性に注目して考え説明する。ポイント③「なぜそういえるのか」という部分に注目し理由根拠を答える。
まずポイント①は、第11傍線直前の「最終的…エネルギーを取り出すようになる。」「自然を分解して…、材料として他の場所で利用する。」という部分に対応しているだろう。そして、ポイント②に重ね合わせれば、人間が自然を材料(エネルギー)として利用する態度と、人間が食物を材料(エネルギー)として利用する態度の類似性を指摘する必要がある。ただし、これだけでは、人間が自然を材料として利用しているという事実説明にはなるが、なぜ利用してよいか、なぜ利用しているのかという根拠説明にはなっていない。そこで第12段落の「しかも自然が機械にすぎず、その意味や価値はすべて人間が与えるものにすぎないのならば、自然を徹底的に利用することに躊躇を覚える必要はない。本当に大切なのは、ただ人問の主観、心だけだからだ。」の部分に注目し、自然に意味や価値がなければ、それをどう利用しても人間の自由であるという理由根拠を述べればよい。

(四)
【模範解答】
近代社会で個人は地域性や歴史性から抜け出し自由で単独な存在となった半面、特殊な諸特徴を喪失した個性のない個人となり、社会が想定する標準的人間像に外れるものの排除も行なわれたということ。
【解説】
傍線部分説明問題であるが、このような問題では、説明するべきキーワードを考えながら傍線部分をいくつかに分け、それぞれを本文に基づいて説明していくという手順を踏む。今回は「原子論的な個人概念」という部分と「政治的・社会的問題」という部分が明確になればよいであろう。
まずは「原子論的な個人概念」という部分は、そのまま「原子論的」という語句を手掛かりに該当個所を探してみよう。第13段落の第2文以降に「近代の人間観は原子論的であり」とあり、さらにそれに続く部分で「近代社会は…個人地域性や歴史性から自由な主体」とした、「人間個人から特殊な諸特徴を取り除き、原子のように単独の存在として遊離させ」た、と書かれている。
次に「政治的・社会的問題」という部分は、「政治・社会」という語句を探すと同時に、解決すべき「問題点」として述べられている部分を探してみよう。すると、第14段落の第2文に「個性のない個人(政治哲学の文脈では「負荷なき個人」と呼ばれる)を基礎として形成された政治理論についても、現在、さまざまな立場から批判が集まっている。」と「政治」という語句があり、また第15段落の第2文以降では「近代社会…どこかで標準的な人問像を規定してはいないだろうか。」「標準的でない人々のニーズは、社会の基本的制度から密かに排除され、不利な立場に追い込まれていないだろうか。」という「問題点」が述べられている。

(五)
【模範解答】
自然は意味や価値を内在しないとみなす二元論的自然観は、全体論的生態系の個性・歴史性・場所性を看過し、自然に対し分解的・分析的な態度で、自然を利用・搾取し続けた結果、独特な時間性と個性を持つ生態系を破壊し環境問題を引き起こしてきたということ。。
【解説】
まず傍線部分の中で指示語である「そのような考え方」を明確にする。その上で、なぜ「そのような考え方」が「自然破壊という悲劇」をもたらしたのかを考えること。「本文全体の趣旨を踏まえて」とあるが、本文全体を均等に考えるのではなく、説明に必要な部分は本文全体の中から探して説明に加えると考える。
「そのような考え方」は当然直前の「二元論的自然観」を示す。この部分では「二元論的自然観」の説明は不足しているので、本文全体に戻って「自然は意味や価値を内在しないとみなす二元論的自然観」という説明にしておく。
この「二元論的自然観」が「自然破壊という悲劇」をもたらした理由は、最終段落の第6文の「自然に対してつねに分解的・分析的な態度」という二元論が「生態系の個性、歴史性、場所性は見逃されてしまう」からであり、その結果、自然破壊が引き起こされたと考える。
また生態系そのものが、「分解的・分析的な態度」で捉えるものではなく、最終段落の第1文にあるように「全体論的存在」であり、第4文にあるように「生態系は独特の時問性と個性を形成する」ものであるという点も補足しておく。
制限字数がある問題は、最初から字数にこだわって書こうとすると難しい。まずは、解答の指針を考え、解答の軸になる要素を箇条書きにする。その際、制限字数と対照し、大まかに解答にする要素を取捨選択しておく。次に、字数を気にせず解答を書き、最終的に字数調整をするとよい。

(六)
【模範解答】
a 枯渇   b 効率   c 秩序   d 浸透 e 交換

moriyama について

時習館ゼミナール/高等部
カテゴリー: 未分類, 現代文 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です